赤岳天狗尾根

  • 期間 2010-o2-12~2010-02-14
  • メンバー 松井(L、26期)、飯干(SL、26期)、浦野(27期)、二見(27期)
  • 記録 松井

●2/11(木)
当初、朝発のあずさで現地入り→出合小屋泊→金曜日核心部→土曜日帰京という予定だったが、木から金曜日にかけ低気圧が通過、土曜日が一番天候が良いとの予報に合わせスケジュールを変更。

19:00 雨の新宿からあずさに乗り、21:00すぎ小淵沢駅集合。小海線ホームの待合室ベンチ4つにそれぞれシュラフを拡げる。電車の騒音等を案じていたがそれ程のことはなく、暖房もきいている上、貸切状態で非常に快適なステーションビバーク。ルート概念の確認等打ち合わせの後23:00就寝。

●12(金)
5:00 起床。ポリタンに水をつめに外へ出た途端に凍結したホームで危うくスリップしそうになり慌てる。こんなところで滑っているようでは先が思いやられる。各自で朝食後 6:10の小海線始発に乗車し清里駅着6:36.。予約しておいたタクシーで美し森へ。昨日は朝から一日中降雨とのことだったが今朝は一応止んでいる。5分程で駐車場着。

7:00 身支度を調え出発。林道から川沿いの道に入りしばらくは踏み跡があったが堰堤を越える手前で消え、渡渉するポイントを慎重に探しつつ進む。いくつかの堰堤を越えると所々で腰まで雪にはまるようになり、ワカン装着。ワカンでの渡渉にヒヤヒヤしながら更に進むと前方に一筋の煙が見え10:00 出合小屋着。先客はツルネ東稜を目指して前日登ってきたが悪天候のため停滞という二人。15分ほどの休憩後、ガンバッテという声援を背に出発。

10:50 秋の講習で取り付いた地点から天狗尾根稜線を目指す。トレースは全くなく、深々ともぐる雪と倒木、笹や石楠花の潅木にエネルギーを消耗しながら、ラッセルを交代しつつ高度を上げ1時間余、やせ尾根に出たところでワカンをはずしアイゼンをつける。講習時に歩いた下の道は雪で埋まっているので、風の合間を計りながらリッジを慎重に進むが、最後の2、3歩の下降にかなり緊張する。再び樹林帯の中に入り、ラッセル。しばらくしてテントを張るのに充分な広さの平坦地に出る(2150m)。地形図上で一日目の最低限の目標としていた地点だが、時間が早いので先へ進む。途中2250m付近にも充分なスペースがあったが、もう少し上がってみようと最後の一頑張り。15:30 テント一張り(200×210:メスナー)がギリギリのスペースを見つけ、幕営(2350m)。ちなみに携帯の電波はアンテナ3本が立った。

16:30 テント内で湯をわかし、お汁粉を作り一息つく。樹林帯の中なので風はあまり感じないが外気温はマイナス6℃。夕食は豚汁(ペミカン)。外へ出ると星が見えているが、天気予報では明日もう一度低気圧が通るとのこと。核心部の手順等確認後21:30就寝。

1.やせ尾根
①やせ尾根


2.2350m

②2350m

●13(土)
4:00 起床。曇天。各自で朝食後テントを撤収しアイゼン・ハーネス・ギア類・ヘルメットを装着して6:00出発。30分程上がったところで前方にカニのツメが見える。10mの壁はそのまま登り、30mの壁でロープを出し松井リード開始(7:40)。雪から掘り出したFIXロープの周りにはびっしりと氷がついていて、プルジックをすべらせるためにピッケルで氷をたたき落としながら少しずつトラヴァース。FIXロープ終了地点からのルンゼは雪がしまっていて立ち木にアンカーをとりながら順調に登るがビレイ解除まで45分程かかった。飯干、二見の順にプルジックで登攀し、浦野さんは引き上げる。9:40全員が通過。

3.カニのツメ

③カニのツメ

4.30m壁ルンゼ
⑤大天狗手前

二人が登ってくる間に先行していた飯干さんのトレースをたどって合流。続く小岩峰も結構いやらしくロープを出し浦野リードで登る。11:00すぎに大天狗基部取り付きに出る。立ち木に支点をとり、松井リードで残置ハーケン2箇所(1つには青の残地スリングあり)にランニングビレイをとり、上のバンドに上がろうとしたが、ほとんど空身だった秋とは勝手が違い、なかなか上がれない。アイゼンのスタンスをきめ、やっと上がったと思った瞬間に上体が突如後ろへ引っ張られたようにフォール。幸い落ちた場所は潅木の上に積雪があり、クッションの上に落ちたような感覚だったが、見ていたメンバー3人にはかなりショックだったようだ。一応どこにもケガをしていないことを確かめてから取り付きに戻る。メンバーから空身で登ろうという意見が出、松井が再度いくことも考えたが、ここまでの行程で消耗していたこともあり二見さんに交代する。2箇所のランニングビレイはしっかりしていたのでトップロープ状態で進みバンドもクリア。飯干、松井、浦野の順に登り、最後に二見さんのザックを引き上げる。

5.大天狗手前
all”>④30m壁ルンゼ

6.大天狗 バンドに乗る
⑥大天狗 バンドに乗る

取り付いた頃から降り始めた雪がこの2時間程の間に強まり、すぐそこにある筈の小天狗もなかなか目視できない。方向を確かめつつ小天狗の左を巻き主稜線への道を辿ろうとするが、雪の冠った光景は講習時の記憶とは全く違いラインをどうとるか相談しながら、また危ないと感じる場面ではロープを出し、15:00すぎにやっと主稜線にのる。稜線上は風雪共に一段と厳しくほとんど視界がきかない。しかし今日中の下山を目指し、文三郎道への巻き道を探して進むと微かに「文三○○」と読める道標を発見。その方向へトラヴァース気味に下りていった処で飯干さんが20m近くスリップする。寒さと疲労で動きが鈍くなってきている状態でこれ以上行動することは危険と下山を断念、一般道方向へ少し戻ったところでビバーク。強風の中、凍りついた緩斜面でのビバークということでポールは立てず、小さな岩にテントをロープで確保しアイゼンをつけたまま中にもぐりこむ(17:00)。

上半身でテント内の空間を確保しつつ順番にダウン等の防寒具を身につけてから、テルモスに残ったお湯を温め直してレモンティーを飲む。更にお湯を沸かそうとするが、ポリタンの口が凍りついてしまってあけることができない。体調回復のためにシュラフに入った二見さんに体温でポリタンをあたためてもらう。大きくはためくテントに煽られて、ガスの炎も手で囲っていないとすぐに消えてしまう。火が消えるとすぐにテント内側が白く凍ってくる。水を作るための雪も集められなかったので温かい食事を作ることはできす、各自で行動食の残りや非常食を食べて過ごす(空腹感は感じないが、体温上昇のため半ば義務的に少しずつ口にする)。ポリタンの氷が溶け、やっと沸かすことのできたコッフェル1杯分のお湯で再度レモンティを作り回し飲みする。

天気予報では一応明日は回復とのことなのだが夜が更けるに従って風はますます激しくなり、テントごと僅かずつだがずり落ちていくので、何度か体や荷物を移動させる。ガスを(下には置けないので)交代で持ちながら、肩を組んだり体をさすりあったり「あと○時間!」と気合を入れたりしてひたすら夜が明けるのを待つが、さすがに眠気に襲われるようになり、またガス缶が残り1つのため節約の意味もあり、ガスを消して座ったまま上体だけを倒し横になる。上からシュラフをかぶりお互いに体を寄せ合い体温で暖をとるが、それでも寒くて体の震えが止まらない。手先や足先が冷たく強張ってくるのを感じ、凍傷を防ごうと手足の指を動かす。おさまることのない叩きつけるような風と雪の音がこわくて、結局眠ることはできない。

●14(日)
ふと気づくとテント越しに周囲が明るくなってきている。風は相変わらずだが首を出して外を窺うと快晴。360°の視界が本当に嬉しい。ゴチャゴチャになっているテント内の荷物を少しずつ片付け身支度を調える。不安定な場所なのでお互いにザックやテントを確保し合いながら外へ出、テントをたたもうとするが、凍りついたテントは一抱えもある重い塊りにしかならず、これを浦野さんが苦労の末ザックにくくりつけ出発(7:30)。足元のアイスバーンや強風に肝を冷やしながら 9:00すぎに真教寺尾根との合流点に達し天狗尾根を振り返るともう大天狗を越えてきているパーティの姿が見える。更に赤岳、阿弥陀岳山頂の人影や文三郎尾根を登ってくる登山者を見て、なぜか少しホッとする。

7.竜頭峰からの天狗尾根
⑨竜頭峰から天狗尾根

8.竜頭峰から
⑩竜頭峰から

10:00 文三郎道下降開始。素晴らしい眺望をゆっくり味わっていたいという気持ちと、早く安心できるところへ下りて昨夜来の緊張の連続から解放されたいという気持ちがせめぎあう。約2時間で行者小屋着。装備を解いてパッキングをやり直す。13:00 赤岳鉱泉で乾杯。ラーメンがとても美味しい。約1時間の休憩後出発し、16:00 美濃戸口着。16:32発のバスに乗り、茅野発17:50のあずさ車内で反省会をしつつ帰京。

9.文三郎道分岐から赤岳
⑪文三郎道分岐から赤岳

10.文三郎道下降
⑫文三郎道下降

11.阿弥陀岳
⑬阿弥陀岳

12.行者小屋へ
⑯行者小屋へ

≪感想≫
一番反省すべき点は主稜線に出た後のビバークの判断が遅れたことで、あらかじめタイムリミットを決めるなどしておけば、もう少し良い条件の場所を選び、余裕のあるビバークができたと思います。また、わたしのフォールも、自分の背負っている重量から考えれば、その前の段階でこのままでは無理と判断すべきでした。ビバーク直前の飯干さんのスリップともども、一歩間違えれば大変な事態になっていたと思われ、幸運に助けられたとしか言いようがありません。

雪と風、寒さの中ではすべての動作が緩慢になり、あらゆるものが凍り、目の前の相手に話すにも精一杯の声をはりあげなければならない…本で読んだりして知識としては持っていたことをあらためて厳しく教えられ、貴重な体験となりました。一人一人のメンバーがそれぞれの持ち場で力を発揮したことで何とか無事に下山できたことに感謝し、より慎重に今後の山行に取り組みたいと思います。

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