全長110kmの信越トレイルはセクション1~10から成り、全体を歩き通すのを「スルーハイク」、いくつかのセクションに限るのを「セクションハイク」と呼ぶ。今回歩いたのはセクション1の斑尾山から7の森宮野原駅まで、約73km。山行としての興趣は少なく、あくまでもロングトレイルだった。
■9/30(火)
黒姫駅からタクシーで、登山道入口バス停から少し入った寺院(即心院、標高710m)まで3000円。薬師如来にお参りし、10時半に出発。晴れ。
草地の道から間もなく樹林に入り、林道を横切ってひと登りで尾根に乗る。斑尾山へ向けて登って行くと、1192mの手前に「蟻のと渡り」の指導標があるが、歩きやすい道で特に痩せている訳でもない。大明神岳(1160m)からの眺めは、野尻湖の向こうに雲を被っている黒姫山(2053m)、右に妙高山(2448.7m)、左に飯縄山(1917.2m)。
十二薬師(昭文社の山と高原地図では「十三薬師」)を拝むと、1381.4m一等三角点のある斑尾山山頂だ。山頂道標に「信越トレイル①-1」とあり、トレイルはここからスタートとなる。
十二薬師の祠は即心院の奥の院であり、また、即心院の南西には薬師岳(819m。上の写真左端の中景)もあって、一帯に薬師信仰の匂いが濃い(⇒ 斑尾高原観光協会/民話「斑尾山の十二薬師」)。
三角点から進んだ北山頂から、長野-新潟の県境を万坂(まんざか)峠へ向かう。下りにかかると行く手が見渡せた(図中の赤線は、今回歩いたGPS軌跡)。

万坂峠で車道を横切り、トレイルは道路を少し新潟側に上った箇所に続く。袴岳への分岐を見送り、しばらく進んで道路に出ると、駐車場の一角に<豊葦遊森の館>があった。そこから赤池の畔を少し歩いたテントサイトに15時。本日はセクション1を消化した。<豊葦遊森の館>は2階建ての1階がトイレ、2階は立入禁止になっている。外の水道には「この水のめません」とあるので浄水器を通した。
■10/1(水)
起床時は曇っていたが、雲の切れ間に星も見える。5:40に出発。
歩き始めて間もなく、遠くにサルの声を聞く。沼の原湿原に霧が掛かる様はちょっと幻想的だ。
毛無山山頂手前の登山道脇にアケビが生っていた。完熟していないようだが、ひとつ割って果肉(種の周りの白いフワフワ)を口にしてみるとほんのり甘い。毛無山(1022.1m)から下りる途中でトレイルは県境を離れる。涌井新池の傍らには石碑が倒れていた。池の名称からして、溜池完成の記念碑だろうか。そこからしばらく林道を歩く。
涌井の集落で国道292号を横断し、セクション3に入る。ひと登りして標高700m前後の山腹を行く歩きやすい道になると、道端のポールに「飯山市大字旭字姥懐」と記してある。山姥伝説でもありそうだ。富倉峠、上杉謙信が兵を休ませた大将陣と進み、林道に出て北峠へ。ここで降り出したので雨具を着けたが、1時間ほど草の道を行くうちに晴れてきた。
黒岩山に向けた登りに入ると、小ぶりのマムシらしきヘビが前を横切った。道は938.4m三角点を外してその東側の尾根へ。ユニークな五角形の休憩舎前から、下の田園地帯とその向こうの山を望む。
緩やかな最高点(911m)を通り過ぎるとふたたび雨。指導標に従って太郎清水経由で桂池へ向かう。太郎清水は山道が道路に下りた横に出ていた。地図に「夏は枯れる場合あり」と注意書きされているが、今はパイプから十分に流れ出ている。汲むために手を浸ける桝(ます)の水が冷たい。
太郎清水から桂池沿いに道路を進み、桂池テントサイトに12:50。シェルター(管理棟?)は梁が折れブロック壁がひび割れて倒壊寸前、立入禁止なのだが、雨を避けるため屋根の下に入り、外に面して置かれたベンチに梁の下を避けて腰を下ろした。シェルター前のクーラーボックスは、太郎清水が枯れている場合に備えて有志が用意してくれたペットボトル水だ。
テントを張った後は降ったり止んだりし、やがて晴れた。
■10/2(木)
5時半に出発。薄くガスが掛かっている。舗装路から北に向かうトレイルに入ると、こちらにも池がある。
仏ヶ峰登山口からセクション4に入る。地図にトイレマークがあるが、スキーリフト乗場のものは営業期間外で使用禁止だ。雲が取れて空が明るい。
藪に挟まれた草斜面を上って稜線に出ると県境線に合流し、仏ヶ峰(1139.9m)へ。小沢峠を越えると、ブナ林が美しい。
鍋倉山(1288.8m)山頂には三角点の傍らに潰れた祠があった。昔の信仰の痕跡に乏しい印象のこのルートには珍しい。
久々野(くぐの)峠を経て上がる黒倉山(1242m)には、新旧の山頂標が建っている。古い木柱と板倉町(現在は上越市板倉区)の石柱に記された標高は現在の地図・地形図より高い。
黒倉山と関田峠の中間あたりで、犬連れの女性二人と擦れ違った。トレイルに入ってから初めて会うヒトだ。その後、一時冷たい風が吹き、顔にポツポツと雨を感じる一方、雲の間から日も射す。
県道95号(上越飯山線)と交差する関田峠で20分ほど休憩。トレイルはここからセクション5となる。
峠から間もなく、県境線から外れて光ヶ原へ下りる。苔の付いた土斜面は滑りやすく、二人同時にシリモチをついた。12時半、光ヶ原高原キャンプ場着。すっかり晴れたので、広い草地のテントサイト一角に湿った荷物を拡げた。
建物の方に行ってみるが、キャンプ場としては営業しておらず、クルマやバイク、自転車がチラホラと現れるのみ。眺望は良く、下の街は妙高~上越市、右手の海岸に建つのは直江津港の上越火力発電所だ。
テントサイトに戻って木陰で各自読書していると、単独男性が下りてきた。我々とは反対方向から来て、宇津ノ俣峠~牧峠で何度もクマの声を聞いたという。本日の行程ではスマホ電波は全般に良く入ったが、関田峠以降は繋がらなかった。
■10/3(金)
5:20に出発、晴れ。
坂を上がって県境線に戻り、梨平峠から1094.9m三角点、牧の小池と辿って、市道牧飯山線を横切る牧峠へ。ここから昨日の単独男性が話していたクマエリアなので、二人の間隔を空けずに進む。いかにもクマの出そうな(?)クマザサの間の道で花立山(1069m)まで30分、さらに30分で宇津ノ俣峠に抜けた。
幸いここまでクマの気配を感じることはなかったが、峠はそのまま通過し、幻の池まで進んで休憩。池畔から県境稜線に戻ると、北側の山並みの奥に黒姫山(891m、写真中央右)や米山(992.4m、写真左寄り)が見えた。斑尾山の西にも黒姫山(2053m)があって紛らわしい。ここはスマホ電波あり。
伏野(ぶせの)峠のトレイル案内板が埋まっているのは、豪雪で垂直に沈み込んだというのだから凄まじい。ここにも桂池テントサイトと同様のペットボトル水が置かれていた。
伏野峠からセクション6に入る。急斜面を上り、須川(すがわ)峠を経て緩いアップダウンで野々海(ののみ)峠に至る。本日の泊り場には峠から車道を行くこともできるが、トレイルを忠実に辿って長野県最北地点の三角点(1135.4m)を確認。ここは見通しが利いてスマホ電波も入った。
やや乾燥した感じの湿原に下り、野々海高原テントサイトに14:50到着。段々になったテン場に他の宿泊者はいないが、地元工務店らしき人が湿原の木道修理に来ていた。

■10/4(土)
起床時の小雨はすぐに止んだ。5:20出発。
三方岳(さんぽうだけ、1138.5m)を踏み、続いて天水山(あまみずやま、1088m)。ここからセクション7に入り、県境線は南へ向かって高度を下げて行く。8:10、「里山出合」のトレイル標識で道路に出た。やがて舗装路となり、標識に従って田畑の間をショートカットして行く。近づくと警戒音や猪の断末魔の声(?)を発する動物避けがあちこちに設置されていた。
古びた石仏や道祖神のある建森田神社に無事下山のお礼参拝の後、国道117号に下りる。セクション7終点の森宮野原駅に9:10到着。ここは、昭和20(1945)年に7.85mを記録した日本最高積雪地点だ。峠のトレイル案内板が地面に押し込まれてしまうのもむべなるかな。
バスまで2時間以上あるので、缶ビールとツマミを買って駅前のベンチで飲んでいると、ソーセージに飛んできたハチが肉団子を作って持っていく。何度も繰り返していたが、これを食べる幼虫が塩分過多にならないか心配だ。
バスで越後湯沢駅に出て、ぽんしゅ館の酒風呂で垢を落とした。
<行程>
9/30 斑尾山登山口(即心院)10:30~斑尾山12:40~万坂峠13:50~赤池テントサイト15:00
10/1 赤池テントサイト5:40~毛無山7:40~涌井9:10~北峠10:30~黒岩山12:00~桂池テントサイト12:50
10/2 桂池テントサイト5:30~仏ヶ峰登山口6:50~小沢峠8:40~鍋倉山10:20~関田峠11:40-12:00~光ヶ原高原キャンプ場12:30
10/3 光ヶ原高原キャンプ場5:20~牧峠7:30~宇津ノ俣峠8:30~伏野峠10:30~野々海峠13:30~野々海高原テントサイト14:50
10/4 野々海高原テントサイト5:20~天水山7:00~里山出合8:10~森宮野原駅9:10

