谷川山塊・一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜

  • 期間 2021-06-07
  • メンバー L田中(35期)、松本(17期)、木村(広)(27期)、保岡(32期)
  • 記録 田中

自主山行で一ノ倉沢烏帽子沢奥壁南稜に行った。日曜日に行った自分たちの自業自得であるが、渋滞がひどかった。南稜テラスでの2時間弱の待機、登攀中もピッチごとに待機して5時間30分、懸垂下降にも3時間30分かかり、14時間行動になってしまった。
登攀で悪かった個所は1ピッチ目のチムニー、6ピッチ目の終了点手前のクラック、7ピッチ目の最後の一手の三ヵ所。心身ともに疲れた。しかし、達成感もひとしおでした。

【1.一ノ倉沢出合からテールリッジ】
一ノ倉沢出合から雪渓を踏む。6月上旬ならではの雪渓を伝ってテールリッジに取り付ける形である。雪渓の厚みがあるのでテールリッジは目の前に見える。これが7月になり雪解けが進むと、沢伝いに詰めてからひょんぐりの滝を高巻きして、また、滝上まで懸垂下降し、渡渉してテールリッジに取り付かなければならないところだ。2時間くらいはかかるところを40分で労なく取り付けた。ありがたや。DSC_3708a
  テールリッジ取付き

【2.テールリッジから南稜テラス】
テールリッジは侮れない。取付きからの50mと中間地点の50mは滑りやすいスラブで難所である。出合からクライミングシューズの木村さん、田中はここでクライミングシューズに履き替えた。松本さんは5.10のアプローチシューズ、保岡さんは登山靴でアプローチした。
取付きのスラブを抜けると険しい登山道、岩場、また、長いスラブ、登山道が続き、衝立岩中央稜の基部に出る。DSC_3711a
  テールリッジ中間部のスラブ嘗めの衝立岩。中央の鎌形ハングの左が南稜テラス

左に岩場をトラバースし、水が流れ出ている悪いスラブを詰めると南稜テラスの下に到達する。このトラバースが落石のリスクが高く、今回も頻繁に落石があった。また、バイルかピッケルが降ってきた。自分もザックにピッケルをつけていたので慌てて中に入れた。DSC_3719a
  南稜テラスから一ノ倉沢出合。松本さんと保岡さんのテントが小さく見える。

【3.南稜テラスから終了点】
南稜テラスに13名のクライマーが待機していた。何時間かかるのか。自分たちも渋滞の一因なので何も文句は言えない。心を空にして待つのみ。その間、中央稜、中央カンテ、変形チムニーにチャレンジしている方たちを観察させてもらう。特に、中央カンテを登っている松本さんの知人は、基部に到着したのは我々と同じ頃なのに既に4ピッチくらい進んでいる。こちらとしてはルート観察に怠りなかった。
順番が来たので、木村・保岡組、田中・松本組(名前はリード順に記載)でスタートした。DSC_3721a
  南稜テラスで2時間待ちの図

■1ピッチ目(南稜テラスからチムニーの上まで)
右のスラブ上の凹角にアンカー、左上しカンテに2ヵ所アルパインで伸ばし、バンドに上がる。
バンドを右に辿り、チムニーの下部へ。このチムニーが悪く、今回は金曜の雨の影響でところどころ濡れている。間が悪いことにステップしたいところが濡れている。乾いている個所を見つけてステミングしつつ、手を探して登った。チムニーを抜けるとすぐにテラスがある。DSC_3720a
  1ピッチ目。右上のオレンジザックの方がいるところが終了点
■2ピッチ目(チムニーの上から草付き手前まで)
右の凹角をアンカーを辿りながら登り、左の立ったフェイスから草付きに出る。フェイスはホールドが小さくカチ持ちになるがホールド、スタンスともに豊富なので慎重に進めばよい。
■3ピッチ目(草付きからスラブ前テラスまで)
2ピッチ目終了点でロープをコイル巻きにしてコンテ。笹薮とぬかるみと闘いながら急登を登る。クライミングシューズが滑ってクマザサに両手でぶら下がり足を取られながら。ガイド付きのパーティは肩がらみのロープで確保していた。ここでは木村さん装備の「雑巾」が素晴らしく役に立つ。自分も次回以降から装備しよう。
■4ピッチ目(スラブ前テラスから6ルンゼ側テラスまで)
ビレイポイントから直上し、左の6ルンゼ側に回り込む。馬の背リッジの手前に壁状のテラスがある。
このピッチでロープがキンクするトラブルを起こした。以下詳細を記すので、他山の石としてください。

  草付きをコンテした時、コイル巻きにしたロープをリード側を下にして
  ほぐしてしまった。
  リードクライマーを10mくらい出したところでロープがキンクし、
  その場で待機してもらう。
  うっかりとは言え重大なミスで、クローブヒッチでロープをフィックス
  した上で片方をハーネスから外し、キンクから抜いてセットし直した。
  片方のロープを外すのがポイント。

■5ピッチ目(6ルンゼ側テラスから馬の背リッジ途中テラス)
本来は垂壁直前テラスまで伸ばすが、前のパーティとの関係で途中で切った。テラスから右側の岩にまさによじ登り、馬の背に出る。そのままリッジを登り直上したが2/3くらいの地点に3人パーティが待機しており、その後ろで中腰でリッジにへばりつくことになった。ふくらはぎとアキレス腱が悲鳴を上げる。馬の背リッジの真ん中で左は6ルンゼだが、右は一ノ倉沢出合まで見通せる見晴らしに高度感があり過ぎて生きた心地がしなかった。待機体勢が辛過ぎたので3人パーティのトップがある程度進んだところで先行させてもらった。
■6ピッチ目(馬の背リッジ途中テラスから垂壁直前テラスまで)
上記都合による短いピッチ。テラス直前のクラックまではフリーでも問題ない。クラックはなかなかに厳しく、特にホールドが少ない。ステミングを効かせてずりずり這い上がる。やっと終われる感が出てきた。
■7ピッチ目(垂壁直前テラスから終了点)
フェイスを直登する。最後の一手は左手のアンダーホールドを効かせて右手をレイバック気味に引っ張り、右足を一段上げる。右足に体重移動して右手を上げて小さいホールドにカチ持ち。左手のアンダーと右手のカチを効かせて左足を挙げて伸びあがり、右手でガバをつかんで終了。大好きな言葉はガバです。

【4.終了点から懸垂下降で南稜テラス】
終了点では5名が待機しており、我々を含めて9名。その後、馬の背リッジの3人パーティと中央カンテからの6名(口が悪い)が加わって懸垂下降待ちは18名になった。やれやれ。DSC_3730a
  終了点

■1ピッチ目
終了点から5m左に移動すると、6ルンゼにラッペルポイントがある。6ルンゼ内の2つ目のテラスまで下降。
■2ピッチ目
テラスから6ルンゼ内のチムニーに下降。下に向かってチムニーが開いているので中に入った方が安定する。
■3ピッチ目
チムニーから南稜4ピッチ目終了点に下降。
■4ピッチ目
南稜4ピッチ目終了点から草付きのテラスへ。途中、笹薮に突入する。
■5ピッチ目
草付きのテラスから南稜テラス直上まで。最後は3m程度クライムダウン(少し足りなかった)。

【5.南稜テラスから一ノ倉沢出合】
南稜テラスからテールリッジまでの奥壁のトラバースは濡れた下りで悪い。鎌形ハングの先から50mロープを垂らしてゴボウでクライムダウンする。
テールリッジの下りも、上部のスラブで50mロープ2本で懸垂下降。
雪渓でアイゼンを履いて出合まで下りた。チェーンスパイクでも大丈夫であった。

【6.感想】
■松本
一ノ倉は平日に限る、を再認識した山行でした。また、南稜や中央稜などの人気ルートは必然的に支点やホールドの強度がチェックされ続けるため、ある程度の安全性は保たれますが、逆に衝立正面やコップなどの岩壁は登られず風化が加速する二極化が進んでいるように思います。それでも実力相応のクラシックルートが少しでも残ってゆくなら、それを志す端くれとして悪い気はしません。このような機会を有志で増やし維持したいですね。
■木村
天気予報が良い方向に外れて、終日良い天気に恵まれました。最高の南陵でした。
また一ノ倉沢へ行きたいと思います。リーダーの田中さん、誘ってくれてありがとうございました。
■保岡
今回の山行は先輩方の豊富な経験と技術でなんとか無事に下山できた感じがします(松本さん、木村さんというガイドに連れってもらった感じが否めません)。
南稜というと一ノ倉の入門編とよく言われますが、自分の思っていたレベルとかけ離れていて体力的・技術的に余裕がなく、楽しめたかは微妙な感じです(汗) 特に最終ピッチ手前のピッチのリードは切れ落ちた大岩の10cm弱の足場からチムニー下部に飛び移る時の体重移動に苦戦して生きた心地しませんでした。これを克服するには何年も空けずに再度チャレンジする事だと思いました。
今度は期の近い同志で行けたらいいな。
■田中
2016年から挑戦していて天候、雪渓の状態などで何度も阻まれてきた状況を打破できて達成感ひとしおです。
山塾HPの山行記録を見返すと2016年に木村(広)さんと二見さんが南稜に登っていて、その記事になんと自分の「いつかは行きたい」というコメントが入っていました。その木村さんとご一緒できたことは何かの巡り合わせあわせかと思いました。
松本さん、木村さんの指導でやり遂げられたことに感謝感謝です。保岡さんは和ませてくれてありがとう。

<行程>
一ノ倉沢出合4:00~テールリッジ取付4:40~南稜テラス5:40~第一ピッチ開始7:30~最終ピッチ終了13:00
~南稜テラス16:30テールリッジ取付17:30~一ノ倉沢出合18:00

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