槍ヶ岳・北鎌尾根

  • 期間 2012-09-14~2012-09-16
  • メンバー L土方(26期)、小林(英)(25期)
  • 記録 土方・小林(英)

■9/14(金) 晴れ~曇り
11:01信濃大町駅に集合。駅前の定食屋でしっかり食べてから予約のタクシーで高瀬ダムへ向かう。30分ほどで到着、運賃は7900円。標高1270m、気温29.2℃、晴天に恵まれた。

準備を済ませて高瀬ダムを出発、名無避難小屋を経て 2時間ほどで湯俣温泉晴嵐壮に到着。テント設営後、湯俣川の墳湯丘を見物に行くことにした。
墳湯丘は湧き出す湯の沈殿物が堆積したもので、対岸と川中のものとの二つを見られた。他の場所からも湯が湧いており、河原を掘って浸かっている人達がいる。

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我々も入浴したかったが雨雲が空を覆い始めたのと16時の気象通報が迫っていたのとで、駆け足でテントに戻った。

気象通報によると停滞前線が東シナ海から日本海にかけて出現したようだ。富士山頂と御前崎の気温差が23℃あり夕立・雷雨の懸念があるため、明日は早発ちすることにする。
夕方から小雨となったがテント内は暖かで就寝時はシュラフ不要だった。さすがに夜半には寒くなって潜り込んだが。

■9/15(土) 晴れ~曇り、雨
2:30起床、4時出発。満天の星空の下、北鎌尾根へ向けて行動開始。
水俣川に架かる吊橋の突き当たりから左岸に降りる。しばらく左岸を歩けると思ったのだが河原はすぐに尽きたので、橋を渡らずに右岸に下りた方がスムーズだったかもしれない。左岸の高いところに道がついているという記録もあるが確認していない。
渡渉が多くいちいち登山靴を脱ぐよりも沢靴で歩く方が早いとアドバイスを受けていたので、ここで沢装備を装着して遡行を開始する。最短距離で突っ切って右岸に上がると、水の冷たさで足が痛い。この後はできるだけ河原を進み、進めなくなると対岸に渡ることを繰り返した。今の時期、水量は少ないのだが、それでも場所によって股下まで。水流が強く体勢が不安定になる箇所はスクラムで乗り切っていく。ルート取りなど小難しいことをあまり考えず、ガンガン渡渉してとにかく進んでいこう。
途中、昔のフィックスの残骸と思われるロープが岩壁に下がっていたりするが、吊橋の跡などには出会わなかった。足元を注意していると単独先行者と思われる跡があるが人影は見えない。

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遡行開始から2時間弱で千天出合に到着。すっかり明るくなり、晴天が広がっている。

千天出合から天上沢を遡行し、P2取付きを目指す。
出合辺りの水勢は少し怖いくらいだが、特に困難な箇所はない。やはり渡渉を繰り返し、やや大きな滝が現れると右岸に高巻が付いている。
やがて左から枝沢が入ってきたのでコンパスを当ててみると、ちょうど対岸がP2へと続く尾根だ。この先に水場は無いので枝沢で各自5リットルの水を汲み、最後の渡渉をして沢装備を片付けた。最初の渡渉からハーネスを着けていたのだが、ここまではまったく不要である。

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P2の取付きには赤テープがあり、そこから一直線の急登。踏み跡はほぼ明瞭だが笹に隠れるところもある。少々スリルを覚える木登りや岩場が続く。岩にこすれてすっかりバラけた捨て縄もあったが、それには頼らず木の根を掴んで上がることができた。
1時間でP2へ到着。休憩してP3へと向かう。

ここからひどい藪と格闘することになる。道は明瞭だが常に藪に行く手を阻まれる。
30分ほどでP3に到着、標高2150m、気温19℃。高度が上がって展望が開けてくる。遠く北の三角形は針ノ木岳だ。
行く手にはP5、P6を望む事ができる。P5は樹に覆われているがP6は剥きだしの岩の絶壁。越えられるだろうかと心配になる。

P3から少し下りコルからまた藪漕ぎで 1時間半ほどでP4に到着。この頃になると青空の中にも雨雲がちらほらと見え出した。

事前に読んだ記録ではP5手前に懸垂下降支点があり、そこを下りてからのガレ場のトラバースが非常に悪いとのことだった。しかし、行ってみると支点に出会う前に天上沢側へ下りる道がある。滑り落ちるような斜度でずいぶん下ってしまう様子なので、いったん戻って先を偵察すると懸垂支点が見えた。が、そこへ行くまでが既に悪く、その向こうに見える問題のガレも険悪だ。偵察点から下に見えるトラバースらしき踏み跡が急降下の道から繋がるものと推測し、安全を取ってそちらを行くことにした。

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急傾斜を下りると確かにトラバースになっているが、草の斜面で踏み跡を見失う。ならば斜上して岩に乗った方が楽だろうと思ったが、上がってみると立てるような岩でなく手掛かりも草ばかりでたいへん悪い。下を見ると草の中に踏み分けが認められたので、そこまでずり落ちた。踏み分け道を辿るとP5-P6のコル。ガレ場の危険なトラバースは避けることができた。

P6基部にはビバークサイトがあった。そこから被り気味の岩壁に沿って千丈沢側をトラバースし、ガレた登りに繋がっている。特に難しいルートではないが、右側は切り立っており重い荷物に振られてバランスを崩すと滑落の危険がある。30m補助ロープを出し、出だしに打ってあったハーケン2本でビレイして土方がリードした。ガレを上がったところの残置ハーケンでピッチを切り、そこからは立ち木に中間支点を取ってトラバース。岩の乗り越しが少し難しく、ここはロープがないと危険だ。終了点には立ち木を利用した。そこから潅木混じりの斜面を右上してP6に到着。
P6基部で一度降ってすぐに止んだのだが、この頃には雨雲が広がりいつ降り出してもおかしくなくなってきた。

P7は問題なく通過。北鎌のコルへ下りる途中に放置されていた雪山装備のザックは遭難者のものだろうか。ついに雨が降り始めたが、特に難しい場面もなく北鎌コルに辿り着いた。
コルには先行パーティ(本日初めて会う他の人間だ)が4~5テンを張っており、我々の2テンを張るには少々狭い。もう少し行くとテントスペースがあるはずなので空身で偵察に出るが、行き会った人からこの先にもテントが張られていると聞いて引き返した。

4~5テンの横、斜面ギリギリにテント設営。潜り込んで気象通報に耳を傾けると停滞前線はほとんど移動していない。これなら明日の天気も期待できそうだ。富士山頂-御前崎の気温差が25℃に達しており夕立・雷雨は気になるが、明日の核心部は午前中~午後の早い時間に終わるから大丈夫だろう。
テントは北鎌沢右俣からの道のまん前に張らざるを得なかったが、その道を夕方薄暗くなってから上がってくるパーティがあった。深夜2時前にも二人連れが装備を鳴らして到着。P8方向へ向かったようだが、この時間でどこに泊まるのだろうと思う。

■9/16(日) 晴れ
3:30起床、5時出発。明るみ始めた空は今日も快晴だ。
歩き出してみると、P8へ向かう途中には2テン3張、5テン1張のスペースがあった。実際に泊まっている人もいて、北鎌のコルまでと比べると尾根が一気に賑やかになった。
フィックスロープもあるが特に頼ることもなく、P8~P9を越えて独標の基部に辿り着いた。ここにも2テン2張、5テン1張りのビバークサイトがあり、登りにかかる前に休憩。
(本峰まで行ってからの印象だが、北鎌のコルからこちらにはテントスペースが散在しておりトータルの収容力はかなりある。もっとも、ピーク上では雷に遭ったら怖いだろうが)。

独標はまず緑色のフィックスロープが張ってあり、念のためフェラータの要領でセルフビレイを取って通過。その先で踏み跡に分岐があり、左は立っている直登ルートでハーケンが打ってある。我々は千丈沢側のトラバースに入るが、途端に「ラク!」の声とともに前方に落石。直登ルートからだろうか。トラバース自体は特に難しくない。
トラバース終点にはハーケンが2本打ってあり、スリングが掛かっている。ここからスリングに乗って登った記録もあるが容易でないとのこと。前方は岩が被さるように出ているがハーケンが1本あり、ルートは続いている。進むのに問題なさそうだが、千丈沢側が切り立っているためロープを出すことにする。ハーケンで中間支点を取り、ちょっと外側に出た足場を使ってトラバース。結果的にロープを使うほどのことはなかった。
終了点からルンゼを登って独標のピークを目指す。ホールドスタンスに不自由ないが、ガレた箇所では注意しないと石がずり落ちる。
独標のピークは気分の良い草原に岩が出ている。ここでついに槍ヶ岳が姿を現した。

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しばらく休憩して、槍ヶ岳に向かって歩き始める。

P11~P12辺り(アップダウンが無数にあり、どれがどのピークか自信を持って言えない)は天上沢側にクライムダウンする。ハーケンに捨てスリングが掛かって残雪期は懸垂下降するという箇所だが、いったん下りたものの稜線から離れすぎる気がして暫くルートを探した。結局、ガレて足元の良くない斜面をトラバースしたが、ここは千丈沢側に楽に歩ける踏み跡があったようだ。
その後のアップダウンはなるべく直登を選ぶ。前後して進むパーティはほとんど巻き道を行くが、もったいないことだ。

P14に上がって休憩していると「開放骨折」という声が聞こえてきた。先ほどクライムダウンしたP11辺りで4人パーティの一人が負傷し、別パーティが救助要請(無線機? 携帯電話?)しているらしいが、ここにいて何もできることはないので先に進む。

P15は巻いて、いよいよ本峰の登り。
大岩のゴロゴロした斜面には踏み跡もケルンやペンキも見えないが、稜線を目安に歩くと首尾よく北鎌平に出た。休憩していると、赤い救助ヘリが先ほどの事故現場へ一直線に飛んでいく。ホバリングして救助隊員を降ろし、周囲を旋回してから負傷者を収容して上高地方面へ去っていった。

最後の休憩を終え、槍ヶ岳山頂へ向けて登り出す。
踏み跡を辿ると、2本連続チムニーの一つ目に出た。ここは上部にお助けヒモがあるが、土方は使わずに右寄りに登る。小林は登り易い左に上がり、お助け紐で右に移った。二つ目は土方は真ん中の出っ張りを抱えるように上がり、小林は右寄りをもっと楽に上がる。いずれもロープは必要なかった。

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チムニーのすぐ上が山頂のようで、左手には木の杭も見える。ここは山頂の祠の裏からひょっこり現れたいと考えて右へ向かった。トラバースに踏み出す部分で少し緊張するが、後は問題ない。そして山頂の西側のリッジを登ると、狙い通りに祠の裏側へ出ることができた。
ついに北鎌尾根から槍ヶ岳登頂を果たし、喜びの握手を交わして感動を分かち合う。天気の良い連休ということもあり、多くの登山者に迎えられる格好となった。

順番待ちして写真を撮り、良い気分で槍ヶ岳山荘へ下る。山荘からの上りは長蛇の列だが、下りはスムーズだった。
計画ではここでテント泊だが、まだ13時と早いので休憩後に横尾まで下ることにする。ベンチで休んでいるとテント満室の掲示が出た。我々も登頂が遅れてここに泊まらざるを得ない時間になっていたら、どうなったことか。

ババ平も賑わっていたが、さすがに横尾には余裕がある。ビールで乾杯し、平らなテント場のありがたみを満喫して就寝。

■9/17(月) 晴れ
いつまでも寝ていられずに横尾を出発、7時半前に上高地に到着。
坂巻温泉でバスを降り、露天風呂の営業を待って入浴。沢渡で食事して帰路についた。

【行程】
9/14 高瀬ダム(12:40)~名無避難小屋(14:00)~湯俣温泉晴嵐壮(テント、14:50)
9/15 晴嵐壮(4:00)~千天出合(6:30)~P2取付き(7:20-50)~P2(8:50-9:00)~P3(9:30-40)~P4(11:20-35)~P5-P6のコル(12:50-13:20)~P6(14:20-35)~P7(14:50)~北鎌のコル(15:00)
9/16 北鎌のコル(5:00)~独標基部(6:50-7:00)~独標(8:00-20)~P13(2873m、09:10-20)~P14(10:30-40)~北鎌平(11:20-35)~槍ヶ岳(12:30-40)~槍ヶ岳山荘(13:00-40)~槍沢ロッジ(15:40-16:00)~横尾(テント、17:10)
9/17 横尾(5:10)~上高地(7:20)

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