一ノ倉沢 衝立岩 中央稜

  • 期間 2014-09-17~2014-09-18
  • メンバー L土方(26期)、田口(22期)
  • 記録 土方

仕事を終え、夜遅くに谷川岳ベースプラザに到着し車中泊。

今日、登る岩壁は衝立岩中央稜、高度差約300mの岩壁だ。
衝立岩は基本的に人工登攀ルートがほとんど。
フリーで登ることができるルートはわずかだ。中央稜はそのひとつ。
下降路には最も一般的な北稜下降ルートを計画した。
登りも下りも僕らにとっては未知のルート。
自主ならではの緊張感に包まれる。

朝の4時半、まだ暗い内から一ノ倉沢出合に向けて出発する。
雲がかすかに見え、晴天というわけにはいかないようだ。
指導センターに計画書を提出。

一ノ倉・衝立岩中央稜 003

マチガ沢を通過し、一ノ倉沢出合に到着。
山頂はどんよりとした雲に覆われ、禍々しい雰囲気を醸し出している。
取付までは、テールリッジ末端への懸垂下降が一回あるだけだ。
最低限のガチャを装備して、一ノ倉沢へ入っていく。

一ノ倉・衝立岩中央稜 006

途中、右岸を高巻き、一ノ倉沢へと戻る。
ヒョングリの滝手前で間違って左岸を登り時間をロスしてしまう。
右岸から高巻き直して、懸垂下降、テールリッジの末端へ。
テールリッジを慎重に登り、突き当りが中央稜の取付きだ。

一ノ倉・衝立岩中央稜 031

一ノ倉・衝立岩中央稜 023

中央稜はリッジを境目にして衝立岩正面壁側と烏帽子岩奥壁側を行き来することになるルートだ。

1P目 40m Ⅳ 土方リード
正面壁側からリッジに向かってランペ状の岩場を登る。
特に難しいところはなく、リッジやや手前でピッチを切る。

一ノ倉・衝立岩中央稜 036

2P目 25m Ⅱ 田口リード
安定したバンドを烏帽子奥壁側へ回り込み、凹角を抜けてフェースを登る。

一ノ倉・衝立岩中央稜 039

3P目 25m Ⅲ、A0 土方リード
右へトラバースし稜へ戻り、凹角からフェースを登る。
このピッチは先へ行きすぎてしまって切る場所を間違えやすいピッチなのだそうだ。
なので、ロープ半分のコールを必ずしてもらうようお願いし、リード開始。

一ノ倉・衝立岩中央稜 043

トラバースには残置があるが、やや緊張しつつもフリーで突破。
フェースを登った安定した箇所に、やや早い気もするが確保支点がある。
ロープ半分に達したか田口さんに聞いてみたが、まだ、とのこと。
(数メートル登ったところにも確保支点があるようだし、もう少し先なのか・・・?)とさらに登り出す。
しかし、1プロテクションしてすぐに「ロープ半分」のコール。
しまった、行き過ぎたようだが、もう引き返せない。
確保支点に見えたのは懸垂支点だった。
不安定だがピッチを切ることにする。

4P目 25m Ⅴ- 土方リード
核心のピッチ。
外傾したところが多いフェースを登り、上部のチムニーに入る。
チムニーはステミングで登り、上部で右壁を背にしてバック・アンド・フットの体勢に。
ガバを掴んで、気合で乗り越えたところがビレーポイントだった。

一ノ倉・衝立岩中央稜 045

5P目 25m Ⅲ 田口リード
凹角状から出口でリッジに戻り、ピナクル脇のビレーポイントまで。

一ノ倉・衝立岩中央稜 048

6P目 40m Ⅲ+ 土方リード
スッキリしたカンテ状を登っていく。
Ⅲ+とはいえ、意外と緊張する箇所もあった。

7P目 25m Ⅱ 田口リード
草付きと階段状の岩場。

8P目 50m Ⅱ 土方リード
引き続き草付きと階段状の岩場。
50m一杯にロープを伸ばして高度を稼ぐ。

9P目 25m Ⅱ~Ⅲ 土方リード
はじめは田口さんリードで左側のルートを登ったのだが行き詰る。
ビレーポイント付近をよく観察すると、右へ行く踏み跡がある。
カラビナ一枚を残置にして、ビレーポイントまでロワーダウンしてもらう。
リードを交代し、踏み跡から右の草付き凹状部を登る。

一ノ倉・衝立岩中央稜 051

登り切ったところが終了点だった。

既に時間はかなり押している。
下山中に暗くなることが予想されたので、場合によってはビバークすることになると金澤さんに連絡を入れる。
あたりは霧に覆われはじめ、今にも雨が降り出しそうな気配だ。
右への踏み跡をたどった先にペツルボルトの懸垂支点を発見。
いよいよ北稜の下降を開始することに。

一ノ倉・衝立岩中央稜 053

40mの懸垂下降を3回終えたところでついに雨が降り始める。
レインウェアを着て、草付きまじりのルートをコップ状岩壁側へ移動しつつ懸垂下降を続ける。

一ノ倉・衝立岩中央稜 056

空中懸垂一回目の灌木には腐った捨て縄が何重にも巻きつけられている。
僕も捨て縄を追加し、40mの空中懸垂をする。

降り立った先には2か所の懸垂支点があった。
これが最後の懸垂下降だ。

バンドを右に歩いた箇所にも懸垂支点があったが、降りしきる雨の中では危険に感じたので手前の懸垂支点を使うことにする。
バンドまでは約10m、懸垂下降は20mなので問題ないだろう・・・と考えたのがまずかった。

最後の懸垂下降を空中懸垂で降り立つと目標とするピナクルが先の方に見える。
しかし・・・後方は空間がパックリと口を開けており、足を滑らせれば数百メートルのダイブだ。
なんとかピナクルまで、ロープよ届け、と懸垂下降でピナクルを目指すが、わずか数メートル届かない。
ああ、あのときバンド先で懸垂下降していれば・・・資料に20mではなく40mの下降と書かれていれば・・・と悔やまれたが後の祭り。

雨でなければ慎重に歩くことができるかもしれないが、足元は濡れて滑りやすくなっている。
秋の日はつるべ落とし。わずかに平らになっている箇所でビバークすることにする。
念のためハーケンを打ち足し、ブッシュなどもまとめて体を固定する。
ツェルトを頭からかぶって、ビバークを決め込む。
夜は寒かったが、さらにレスキューシートをかぶるとあたたかかった。
万が一に備えて、松本さんにこちらの状況をできる限り伝える。
近年、松本さんが同ルートをやっており、万が一の際は予測をつけやすいだろうと考えた。
ありがたいアドバイスをいただき多謝。

寝たり起きたりを繰り返す内に日の出の時刻を迎える。
雨はあがり、岩壁は乾いている。
明るくなってみると、ピナクルまでの道筋が見える。
クライミングシューズに履き替え、転ばないように慎重にピナクルを目指す。
ピナクル直下の踏み跡にたどり着き、田口さんとガッチリと握手。
ようやく生きた心地がした。

踏み跡を歩いて略奪点を通過、衝立前沢を下降。
10mの懸垂下降をして、さらに下ると一ノ倉沢との出合へ。

一ノ倉・衝立岩中央稜 001

一ノ倉・衝立岩中央稜 006

右岸の不明瞭な小さな沢筋のような草付きを登った先で往路の踏み跡に合流。

往路を戻り一ノ倉沢出合へ。
お互いの無事を喜び、田口さんとガッチリと握手を交わしたのだった。

振り替えってみれば、小さなミスが幾つも重なってビバークするハメになったと痛感している。
中央稜の難しいピッチ、北稜下降ルートの難しい箇所、それら難所に目が奪われ、気に留めていなかったところで時間をロスしてしまった。
一ノ倉のような本チャンでは、なんでもないところでもワンミスが命取りになる箇所が多分にある。
主だったところ以外でも十分に用心して準備するよう、今後の山行に生かしていきたい。
とは言え、苦労して北稜の下降ルートを把握することができた。
今後、衝立岩をやる際には、よりスムーズに下降することが可能になったと思う。

【行程】
・9/16(水) 谷川岳ベースプラザ(4:30)~一ノ倉沢出合(5:30)~衝立岩中央稜取付き(8:00)~終了点(14:00)~北稜下降ポイント(14:25)~ピナクル手前(18:00)
・9/17(木) ピナクル手前(5:15)~略奪点~衝立前沢~出合(8:00)~一ノ倉沢出合(9:30)

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