笛吹川流域 ヌク沢・左俣

  • 期間 2013-10-20
  • メンバー L土方(26期)、鈴木(利)(30期)
  • 記録 土方

秋雨がフライシートを打ちつける。
強い音だが、この音に怯んでしまってはいけない。
テントを打ちつける雨は実際より大きい音を鳴らすものだ。
あまり食欲はないが、朝食をとるためにお湯を沸かし始める。
昨晩はしこたま飲んで食べた。
だが、山の中を歩き始めればすぐにお腹が空く。
腹が減ってからでは遅い。朝食を無理やり流し込む。

ここは笛吹小屋キャンプ場。
本来であれば、三ツ峠でクライミングをするはずだった。
しかし、雨になってしまったので、あらかじめ用意しておいた西沢渓谷へと転進した。

本日遡行する沢は笛吹川流域のヌク沢・左俣。
地元で「幻の滝」と称される大滝があり、落差は三段260mもあるという。

テントの外に出ると予報よりも雨は強い。
沢がどんな状態かわからないが、とにかく足を運んでみよう。
濁流となっていて遡行できないようであれば、引き返せばいいのだ。
レインウェアを着こんだ僕らは暗闇の中、雨に打たれながら沢へと向かい始めた。

ヌク沢・左俣 002

ヌク沢橋の左岸から入渓し、堰堤を越え広々とした平地に立つ。

ヌク沢・左俣 003

川は穏やかな流れで水は透き通っている。
相変わらず雨は降り続いているがこの状態なら登れそうだ。
突如状況が変わったとしても、すぐ東側には近丸新道が通っている。
行けるとこまで行ってみよう。
そう話し合い、遡行の準備を始める。

準備をしている間に空が明るくなってきた。
雨は本降りだが、沢に入ってしまえばさほど気にならないものだ。

遡行を開始し、水流に足を浸すとやはり水が冷たい。
1300mの二俣は右俣へと進み、堰堤を左岸から越え、美しいナメ、ナメ滝を楽しみながら遡行を続ける。

ヌク沢・左俣 021

ヌク沢・左俣 032

1550mの奥の二俣から左俣に入ると堰堤があり、左岸から越える。
しばらく遡行を続けると、三段260mの前半100mの滝が現れる。
100mの滝はロープを出す必要がなさそうだ。

ヌク沢・左俣 046

登って行くと、幅40m、落差80mの大滝が行く手に立ち塞がる。
迫力のある大滝に思わず「おお~」と声が出る。

ヌク沢・左俣 049

滝をじっくりと観察するのだが、どうにも残置ピトンが見当たらない。
だが、下から見上げる限りでは傾斜は緩く、登攀にはさほど苦労しないように思える。
比較的登りやすそうな右壁に取り付き登攀を開始する。
傾斜の緩いフェースを10数メートルほど登り、クラックにカムをセット。
水流の際を左上する。
眼下に目をやると、かなり高度感があり滝もヌメっているので緊張感が増す。
水流がとても冷たくて、ホールドを掴んだ手の感覚がしだいに麻痺してくる。

ヌク沢・左俣 050

大滝中央のランペを直上し、リングボルトにランナーを取る。
ロープは残り少なかったが、上部のテラスまで登る。
しかしテラスには残置も灌木もない。ロープは50mほぼ伸びきっている。
クラックにカムをセットし、縦リスにハーケンを打ちこんでビレイポイントを作る。
セカンドを引き上げ、リード確保の準備をする。
かなり高度を稼いだから2ピッチ目はそんなに登らなくていいはずだ。

しかし、利幸さんが滝を直上せず、短く切って右端の灌木帯でビレイしたいと申し出る。
無理もない。
一見易しそうだが、高度感抜群、ヌメっていて滑りやすく、クライマーを恐怖のどん底へ叩き落とす滝なのだから。
申し出を承諾し、利幸さんは右上しながらトラバースし、灌木帯でビレイする。

ヌク沢・左俣 051

灌木帯から上部を眺めると落ち口までは残りわずか。
傾斜も緩く大丈夫だろうと判断し、利幸さんに最終ピッチのリードを改めて勧めてみる。
利幸さんが快諾し、登り始める。
しかし、灌木帯にランナーを取り、滝の中央に寄ってランナーを取る。
また灌木帯に戻ってランナーを取る・・・などを繰り返すのでロープはZ状に屈曲し、落差以上にロープが足らなくなってしまう。
滝の落ち口まで登りきったところでロープが伸びきってしまった。

かなりの時間を経て、「登れ」のコールが届く。
登ってみると、灌木帯から見上げるよりはるかに手ごわい。
ロープの流れはよろしくないが、僕が登ったとしても同じルートを辿るかもしれないと感じる。
登りきると、さきほどと同じくカムとハーケンでビレイポイントを作っていた。
とにかく80mの大滝を登り終えホッとする。

しかし、中段80mを越えた先には三段目80m大滝が待ち構えていた。

ヌク沢・左俣 052

気分的にはもうお腹いっぱいなのだが、登るしかない。
傾斜の緩い三段目80m大滝は右岸の草付きに取り付いたのだが、意外と滑りやすい。
バイルを地面に突き刺し、慎重に登る。
落ち口あたりまで登ったところで右岸から左岸へ移り、緩やかな草付きを歩いて大滝の登攀は終了。

続くトイ状の滝を登り終えたところで、戸渡尾根から南東へ派生する支尾根に取り付く。
苔生す幽玄の趣きの尾根筋を忠実にたどって、登山道へと出る。

ヌク沢・左俣 054

ヌク沢・左俣 058

利幸さんとガッチリと握手し、幻の滝を登り切った喜びと、お互いに無事であったことの安堵感を分かち合う。
そして沢装備を片付け、徳ちゃん新道経由で下山する。

帰りは西沢渓谷から塩山へ向かう途中の白龍閣に寄り、温泉でひとっ風呂浴びる。
雨と水流で芯から冷え切った体に心地よいお湯がしみ込んで全身が癒される。
露天風呂に浸かりながら、数年前、長澤さんの釜ノ沢講習の後にここに寄ったんだよなぁ。
と、当時のことを振り返る。
講師の方々、諸先輩方に様々なことを教えていただいたからこそ、こうやって無事でいられるのだと感謝の気持ちを新たにする。

温泉で温まった後は塩山駅へ送ってもらい、東京への帰路についたのだった。

【行程】
10/20(雨)
笛吹小屋キャンプ場(5:00)~ヌク沢橋(5:30)~二俣(7:20)~奥ノ二俣(8:30)~中段80m大滝基部(9:30)~中段80m大滝終了点(11:50)~登山道(13:50)~徳ちゃん新道~登山口(16:00)

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